今年の舞台はスイス・チューリヒ。世界最強を決める大一番をプレビュー。
年1回、毎年違うコースで開催される世界選手権。今年は昨年のように複数種目を同時期に行う「スーパー世界選手権」ではなくロード単独での開催だが、史上初となるパラサイクリングとの同時開催となる。
2024年の舞台はスイス最大の都市チューリヒ。イタリアとドイツを結ぶ要衝であり、ローマ時代から栄えた風光明媚な街で、選手たちは世界王者の証である「マイヨアルカンシェル(虹色のジャージの意)」を争う。
ロードレースは女子エリートが9月28日(土)、男子エリートが9月29日(日)に行われる。コースと注目選手を確認していこう。
コース概要
コースはスイスアルプスに抱かれたチューリヒ近郊に敷かれており、当然のように起伏に富んでいる。
男子エリートはチューリヒ北東に位置するヴィンタートゥールをスタートし、まずは緩やかな登りを含む北側のループを1周。
再びスタート地点を通過した後に登場する「キーブルグへの登り(距離1.2km、平均勾配12%)」は短いが強烈な登りだ。
伝説上の生物であるグリフォンの名を冠するグライフェン湖に向かって南下し、「ビンツへの登り(距離4.6km、平均勾配4.5%)」をこなすと、決戦の舞台となる「シティサーキット(距離26.8km、獲得標高408m)」に到達する。
美しいチューリヒ湖岸に沿って北上すると現れるのは、チューリヒ伝統の春祭りが行われるゼクセロイテンプラッツ(6時の鐘の音の広場の意)。
この広場に引かれたフィニッシュラインを起点に、シティサーキットを7周回する。
フィニッシュラインを通過して約2km進むと、曲がりくねった登り坂「チューリヒベルグ通り(距離0.8km、平均勾配8.6%)」が現れる。
終盤に最大勾配15.9%を刻む勝負所だ。
もう1つの勝負所となる「ウィティコン通り(距離2.3km、平均勾配5.7%)」は約1kmの平均勾配8%区間が難所。
この区間の前後は平坦に見えるが、実は緩く登っていることに注意したい。この「偽平坦」が選手の脚力を奪い、ペースを狂わせるのだ。
森の中を走る「シュマルツグルーブ通り(距離0.8km、平均勾配8%)」などの小さな登りをこなしながらチューリヒ湖にたどり着くと、そこからフィニッシュラインまでの湖岸は平坦基調となる。したがって、単純な登り勝負にはならない。
総走行距離は273.9km、獲得標高差は4,470m。
昨年のグラスゴー世界選手権(距離271.1km、獲得標高差3,570m)は無数のコーナーをさばくテクニックと短距離の激坂をこなすパンチ力が勝負を分けたが、今年のチューリヒのコースは登坂力が鍵となる。
ただし、獲得標高差は2018年のインスブルック世界選手権(距離258.5km、獲得標高差4,670m)に迫るものの、完全なるクライマー向けのコースとは言えず、アルデンヌクラシックで活躍するパンチャーを含む多くの選手にチャンスがある。
女子エリートのスタートはウスター。
ファンネンシュティール丘陵を挟んでチューリヒ湖と並ぶグライフェン湖を1周半走ってから男子エリートと同じ「シティサーキット」へ入り、4周回する。
総走行距離は154.1km、獲得標高差は2,384mだ。
注目選手
男子エリートの注目スペシャライズドライダーは、2年ぶり2回目のロードレース世界王者戴冠を目指すレムコ・エヴェネプール(スーダル・クイックステップ)。
パリ五輪で個人タイムトライアルとロードレースの二冠という偉業を達成した彼は、世界選手権でもその再現を狙う。
ロードレースに先立って開催された個人タイムトライアルでは見事に勝利を飾り、昨年に続く二連覇を達成。
近年はグランツールレーサーとしても活躍するエヴェネプールはワンデーレース巧者でもあり、キャリアで実に12のワンデーレースを勝っている。今大会最も注目される選手の1人だ。
世界選手権は五輪と同じく国別対抗戦のため、エヴェネプールはベルギー代表として出場する。基準日のUCI国別ランキングで決まる出場人数は最大人数の8名。
ブエルタ・ア・エスパーニャで脚を負傷したワウト・ファンアールト(ヴィスマ・リースアバイク)の不在は大きな痛手だが、ヴィクトル・カンペナールツ(ロット・デスティニー)やティム・ウェレンス(UAEチームエミレーツ)など、強力なメンバーが揃う。
エヴェネプールを2年連続個人タイムトライアル世界王者へ導いたShiv TTについて詳しく>
エヴェネプール率いるベルギー最大のライバルは、今季絶好調のタデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ)を擁するスロベニア。
ポガチャルが今シーズン出場したレースで勝っていないのはミラノ〜サンレモとグランプリ・シクリスト・ド・ケベックの2レースのみで、直近で出場したグランプリ・シクリスト・ド・モンレアルでは得意の20km独走を決めて圧勝。
今年の世界選手権はポガチャル向きのコースであり、同一年のジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランス、世界選手権を制する「トリプルクラウン」を目指す彼をどう攻略するかがポイントになりそうだ。
ブエルタ・ア・エスパーニャでの総合優勝が記憶に新しいプリモシュ・ログリッチ(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)もスロベニア代表として出場する。
ポガチャルとどのようなコンビネーションを見せるのだろうか。
また、昨年覇者のマチュー・ファンデルプール(アルペシン・ドゥクーニンク)も無視できない存在だ。
オランダチームのエースである彼は本気で連覇を目指して準備を進めており、直近のツール・ド・ルクセンブルクでは登りに対応するために絞った体で切れ味鋭いスプリントを披露していた。
毎年世界選手権で素晴らしい戦いを見せるフランスは、必ずレースを揺さぶってくるはずだ。
過去2回世界選手権を制しているジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)の走りに期待したい。
強力なクライマーを揃えるスペインからはツールとブエルタで奮闘したミケル・ランダ(スーダル・クイックステップ)と、ブエルタでログリッチを助け、直近のワンデーレースで素晴らしい走りを見せるロジャー・アドリア(レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)が出場する。
女子エリートは昨年独走勝利を飾ったロッテ・コペッキー(ベルギー、SDワークス・プロタイム)が連覇を目指す。
今年は登坂力を強化し、クラシックレーサーからオールラウンダーへと進化。
世界最高の選手たちと登りで戦えることはこれまでのレースで証明済みで、一番の優勝候補としてスタートする。
ジロ・デ・イタリア・ウィメンとツール・ド・フランス・ファムの両方で山岳賞を獲得したクライマーのジュスティネ・ヘキエーレ(AGインシュランス・スーダル)など、頼もしいチームメイトがコペッキーを支える。
コペッキーの連覇を何としても止めたいのが、世界最強の女子チームであるオランダ。コペッキーとはチームメイトでもあるデミ・フォレリングを筆頭に実力者が揃う。
昨年表彰台の頂上とそのひとつ下を分け合ったコペッキーとフォレリングを中心に、今年もレースが進む可能性は高い。
さらに昨年の世界選手権女子U23優勝者であり、今年ツール・ド・フランス・ファムでステージ勝利を飾り、パリ五輪で4位に入ったカタブランカ・ヴァシュ(ハンガリー、SDワークス・プロタイム)にも注目したい。
世界選手権に出場するスペシャライズドライダーたちの相棒となるのは、世界最速のレースバイクとしてお馴染みのTarmac SL8だ。
一部の選手は創立50周年を記念したS-Works Forward 50コレクションを使用する。
パリ五輪でも登場した特別なバイクで、スペシャルペイントが特徴。なお、エヴェネプールはパリ五輪覇者の証である金色のTarmac SL8を使用する。
スペシャライズドライダーの相棒として世界選手権を走るTarmac SL8について詳しく>
選手たちは世界選手権ではチームジャージとは異なる各国の代表ジャージを使用する。
エヴェネプールとコペッキーのベルギー代表ジャージは水色基調で、ログリッチ(スロベニア)は黄緑、フォレリング(オランダ)はオレンジ、ヴァシュ(ハンガリー)は赤がポイントカラー。
アラフィリップ(フランス)はフランス国旗のトリコロールカラー、ランダ(スペイン)は白地にスペイン国旗の赤・黄・赤の横縞をあしらったジャージを着る。
ヘルメットなどの機材は通常のレースで使用するスペシャライズドのプロダクトを使用するので、ジャージに加えて機材の「S」のロゴを目印にすると、応援する選手を見分けることができるはず。
※コース、出場選手等の情報は2024年9月23日時点のものです。
【筆者紹介】
文章:池田 綾(アヤフィリップ)
ロードレース観戦と自転車旅を愛するサイクリングライター。名前の通りジュリアン・アラフィリップの大ファン。
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