今年も宇都宮を熱く盛り上げたスーダル・クイックステップ。6人の狼たちの走りをプレイバック。
昨年に続き宇都宮ジャパンカップに「ウルフパック(狼の群れの意)」の愛称で知られるスーダル・クイックステップが出場。日本のファンたちの熱い応援に応える走りを見せてくれた。
目次
10月18日(金):チームプレゼンテーション
宇都宮ジャパンカップ開幕を告げるチームプレゼンテーション。
会場のオリオンスクエアには大勢のファンが集まり、2年連続3回目の出場となるスーダル・クイックステップに大きな声援を送った。
ツール・ド・フランスのリーダージャージであるマイヨ・ジョーヌ着用経験を持つイヴ・ランパールト(ベルギー)、
頼れるベテランのピーテル・セリー(ベルギー)、
登りに強く抜群の勝負勘を持つファウスト・マスナダ(イタリア)、
プロデビューイヤーながら数々のビッグレースを走破してきたアントワン・ウビー(フランス)、
日曜のロードレースにエースとして臨むイラン・ファンウィルデル(ベルギー)、
シーズン終盤も絶好調のマウリ・ファンセヴェナント(ベルギー)。
6名がウィルフレッド・ピータース監督とともに登場。
壇上でウビーが掲げたのは6人の選手の名前が入った特製の応援フラッグ。
「GO! WOLFPACK」のデザインは2024年宇都宮ジャパンカップ限定の特別仕様だ。
スペシャライズドブースでゲットした同デザインのTシャツとサコッシュを着用したファンたちの姿と相まって、チームのレースへの意気込みと、日本でのウルフパックの人気ぶりを感じさせる時間となった。
10月19日(土):宇都宮ジャパンカップクリテリウム
前日の晩に道路を濡らした雨は上がり、10月とは思えない蒸し暑さの中で開催されたクリテリウム。
オリオンスクエアで出走サインを終えた6人は、コースとなる宇都宮市大通りに向かう。Tarmac SL8を駆る姿を集団で狩りをする狼に例えられる選手たちも、レース開始前はリラックスした表情を見せていた。
1周2.25kmの宇都宮市大通り周回コースを15周するクリテリウム。
33.75kmという短距離決戦のためか、スタート直後からUCIワールドチームが積極的に動く展開となった。
スーダル・クイックステップも前方で機会を伺い、まずはランパールトが抜け出しを図る。
アタックの応酬が続く中、3周目に入る直前に加速したニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト)にウルフパックルーキーのウビーも追随し、5人の先行グループが形成された。
S-Works Evade3を被るウビーは4周目と12周目の中間スプリントで2位に入り、好調さをうかがわせる。
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数秒の差で先を行く5人に5周目と6周目でメイン集団から6人の選手たちが合流し、先頭グループは11名に。海外チームで構成された先頭グループとメイン集団とのタイム差は、周回を重ねるごとにじわりじわりと開いていく。そうして、この11名がレース史上初となる逃げ切りを成し遂げた。
最終周回を告げる鐘の音とともに、1人の勝者を決めるための先頭11名による戦いが始まる。
アタック、カウンターアタック、そして牽制。ロングスプリントを放ったトムス・スクインシュ(ラトビア、リドル・トレック)が真っ先にフィニッシュラインに飛び込み、ウビーがキレのあるスプリントで3位に入った。
ウビーはシクロクロスも走る23歳。プロデビューイヤーとなった今シーズンは1月のサントス・ツアー・ダウンアンダーを皮切りに60日以上レースを走っており、休養を要するため今季のシクロクロス参戦予定はないとのこと。
これからもシクロクロスを走りたい気持ちはある。でも自分は複数回フランスチャンピオンになった選手であり、走るからにはただ走るだけではなく、良い走りをしたい、とクリテリウム前日に話してくれた。
ウビーはU23リエージュ~バストーニュ~リエージュで2位に入るなど、登りに強くタフに走れる選手だ。エリートのレースではこれが初めての表彰台となる。名前を覚えておくべき選手の1人だろう。
10月20日(日):宇都宮ジャパンカップロードレース
前日の蒸し暑さから一変、冷たい風が吹く秋晴れの朝。ロードレースの舞台は、古賀志林道のつづら折りの登り坂が名物の宇都宮市森林公園周回コース。1周回10.3kmを14周する144.2kmで競われる。
レース会場のスペシャライズドブースには多くのファンが詰めかけ、淡く澄んだ陽射しの中で選手たちとの交流を楽しんだ。
特設ステージの前には6人が乗るTarmac SL8が並ぶ。ファンのひとときを終えた選手たちは、大きな声援を受けながらスタート地点へ向かった。
スーダル・クイックステップが駆る世界最速のレースバイクTarmac SL8について詳しく>
穏やかに談笑していた選手たちの表情は、レース開始とともに一変する。
前日のクリテリウムと同じく、ロードレースも開始直後からフルスロットル。早々に元全日本王者やグランツール覇者を含む逃げグループが先行するが、メイン集団がひたりとマーク。先頭へのブリッジを狙う選手たちが次々と飛び出しては引き戻され、レースの強度は上がる一方だ。
「前半は逃げグループを泳がせておいて、勝負は後半から」というロードレースの古き良き定石を覆す苛烈な展開である。耐えきれなくなった選手たちが次々と振り落とされ、メイン集団はみるみるうちに小さくなっていった。
スーダル・クイックステップはマスナダ、セリー、ファンセヴェナント、ファンウィルデルが前方に陣取り、睨みを利かせつつ、隙を見て攻撃を仕掛ける。それは「狼の群れ」というチームの二つ名を想起させる、勇敢で獰猛な走りだった。昨年はTOP10圏外に終わったが、今年は違う。彼らは、勝つためにここに来た。
レースが動いたのは11周目の古賀志林道の登りだった。パウレスのアタックにマイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・プレミアテック)が追随。
山頂を超えた下りでマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)、そしてファンウィルデルとファンセヴェナントのウルフパックコンビが合流し、強力な5名による先頭グループが出来上がった。
追走を振り切って走り続ける先頭グループに2名を乗せ、必勝態勢を敷いたスーダル・クイックステップ。しかし、最終周回の登りでファンウィルデルが遅れてしまう。すると、彼を待つためにファンセヴェナントが先頭交代を拒否。
ファンセヴェナントが脚を温存することを嫌った3名がファンウィルデルの再合流を許すと、4人に追いついたファンウィルデルは強烈なアタックを放ち、ライバルたちに揺さぶりをかける。
カウンターで飛び出したウッズはファンセヴェナントがチェック。数的優位を活かして勝利を狙う2匹の狼が演じる駆け引きを、観客は息をのんで見守った。
牽制状態のまま、レースは残り1kmに突入。ファンセヴェナントが早駆けで勝負に出るが、その背中をとらえたパウレスが伸びる。ファンウィルデルも全力でペダルを踏む。先着したのはパウレスだった。
僅差の2位争いを制したファンウィルデルが笑顔を見せたのは、コミッセールから順位を告げられてから。ファンウィルデルと協力してレースを動かし続けたファンセヴェナントも5位入賞を果たす。
昨年は冷たい雨の中で完走することなくバイクを降りたファンウィルデルが、1年前の悔しさを晴らす2位を掴み取った。それはチーム全員による勝利を目指す走りの賜物である。
Tarmac SL8も2日連続で表彰台に上がり、その強さを証明した。
「日本でのレースは特別なんだ」と語ったのは、レースを終えたマスナダだった。
欧州外でのシーズン最終戦ということもあるが、日本のファンが作り出すあたたかい空気が素晴らしい、とのこと。
きっと6人全員がそう感じたからこそ、全力の走りを見せてくれたのだろう。だとすれば、彼らはまた帰ってきてくれるはずだ。ロードレースを愛する優しいファンが待つ宇都宮に。
今度こそ、表彰台の一番高い所に立つために。
【筆者紹介】
Photo:北口 圭介 Text:池田 綾
2024宇都宮ジャパンカップ 3Daysダイジェストムービー
10月18日(金):チームプレゼンテーション
10月19日(土):宇都宮ジャパンカップクリテリウム
10月20日(日):宇都宮ジャパンカップロードレース
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