熱戦が続くツール・ド・フランス。エヴェネプールとログリッチ、2人のスペシャライズドライダーのここまでの走りを振り返ります。
全21ステージ中9日目までを終えたツール・ド・フランス。総合首位を巡る戦いの中心にいるのは、やはり「ビッグフォー」と呼ばれる4人の主役たちだ。
積極的な走りを見せているのは、マイヨジョーヌ(総合賞ジャージ)を着るタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)
そしてポガチャルから33秒差で2位につけるレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)。
総合3位に1分15秒差でヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)
総合4位に1分36秒差でプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)が続く。
つまり、主役4人が総合1位から4位に並んでいるというわけだ。
勝負が始まったのは2日目の激坂サンルーカ。ポガチャルとヴィンゲゴーが抜け出すも、エヴェネプールが猛追し3人は同タイムでフィニッシュ。一方、ログリッチは21秒を失った。
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第2ラウンドは今大会最初の山岳ステージである第4ステージ。超級山岳ガリビエ峠でポガチャルが独走に持ち込み、ステージ勝利を飾った。だが、この日もエヴェネプールがヴィンゲゴーとログリッチを含む追走グループを率いて追いかけ、タイム差を30秒強に留めた。
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4人の直接対決の舞台となったのは、7日目の個人タイムトライアルステージ。この日の大本命と言われていたエヴェネプールは、3日目からから着用し続けている白いマイヨブラン(ヤングライダー賞ジャージ)で出走。3つある中間計測全てで最速タイムを叩き出し、23.4kmを平均時速52.58kmで駆け抜けた。
会心の走りではあったが、同じくタイムトライアル巧者であるポガチャルが、自分のすぐ後を走っている。フィニッシュしたエヴェネプールはS-Works TT 5を脱ぐことなく、荒い呼吸を整えることもせず、レースを映すモニターを凝視し続けた。
ポガチャルは12秒遅れでフィニッシュ。エヴェネプールのステージ優勝が決まった。
その瞬間、彼の顔に浮かんだのは、歓喜というよりも安堵の表情だった。
ツールの区間勝利を叶えることができる選手は少なく、しかも初出場で、狙いを定めた日に射止めるのは至難の業である。現個人タイムトライアル世界王者でもあるエヴェネプールの肩には、自信と同じくらいの重圧がのしかかっていたはずだ。
チームとして12大会連続のツール区間勝利を喜ぶスタッフたちの祝福を受け、ようやく控えめな笑顔を浮かべた彼は、世界選手権、ヨーロッパ選手権、そして全グランツール(ツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリア、ブエルタ・ア・エスパーニャ)の個人タイムトライアルステージを制した史上初の選手となった。
9日目のグラベル(未舗装路)ステージでも、エヴェネプールが魅せた。
位置取りに苦労する場面もあったが、砂利が敷かれた登りでアタックし、ポガチャルとヴィンゲゴーを引き連れて先行する動きを見せた。残念ながら協調は叶わず、「他のライバル勢からタイムを奪う」という野望は砂埃の中に消えていったが、白い道を勇敢に進むエヴェネプールに、3年前のジロ・デ・イタリアのグラベルステージで力なく遅れていった若者の面影は、もうなかった。
好調なエヴェネプールとは対照的に、もう1人のスペシャライズドライダーであるログリッチは明らかに本調子ではない。他の3人に遅れを取ることもしばしばだが、慌てることなく、時にライバルたちの力を利用しながら上手に立ち回っている。
ログリッチ本人も「心配性になるには、自分は年を取りすぎている」と落ち着いたものだ。四強の中で最年長であり、経験豊富なログリッチのこと、反撃の機会を辛抱強く待っているのだろう。
それに、ログリッチはエヴェネプールが勝った個人タイムトライアルステージでは力強い走りを披露し、区間3位に入っている。ツールでの個人タイムトライアルステージ3位は自身最上位であり、決して防戦一方というわけではない。
レッドブル・ボーラ・ハンスグローエとログリッチは、今年のツールに向けて、カリフォルニア州モーガンヒルにあるスペシャライズド本社のWin Tunnel(ウィントンネル:サイクリング専用風洞実験施設)を複数回訪れ、ポジションやジャージのフィット具合など、あらゆる要素をチューニングしてきた。
スペシャライズドのエアロ専門家集団は、極限の速さを追求する選手へのサポートを惜しまない。スペシャライズドライダーのタイムトライアルの強さには、理由があるのだ。
こうしてツール・ド・フランス1週目が終わった。
前半戦から積極的に攻める選択をした選手は自身のコンディションとライバルから奪ったタイム差に、後半戦に賭ける選手は決定的な遅れを喫さなかったことに満足しているだろう。誰もが小さな勝利を手に入れて、ツールは2週目に向かう。
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【筆者紹介】
文章:池田 綾(アヤフィリップ)
ロードレース観戦と自転車旅を愛するサイクリングライター。名前の通りジュリアン・アラフィリップの大ファン。