Rhapsody in Pink ジロ・デ・イタリア2024 プレビュー

Rhapsody in Pink ジロ・デ・イタリア2024 プレビュー

  • イベントレポート

いよいよグランツールシーズンが到来します。間もなく始まるジロ・デ・イタリアの今年の見どころをチェックしていきましょう。

ジロ・デ・イタリア2024概要

季節が春から夏へ進むのにあわせて、ロードレースシーズンもワンデークラシックからグランツールへ軸足を移す。グランツールとは複数日を競うステージレースの中で最も格の高い3つのレース、すなわちジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランス、そしてブエルタ・ア・エスパーニャを指す。3つの中で一番早く始まるのが、「イタリア一周」というレース名を持つジロ・デ・イタリアだ。

2024年の開催期間は5月4日から2日間の休息日を挟んで5月26日まで。21日間の戦いは総走行距離3,400km、総獲得標高は44,650mに達する。しかしその過酷さを数字だけでは表すことはできない。ロードレースは自然との戦いでもあり、雨や風、そして時に険しい山々に残る冷たい雪も牙をむくのだから。

トリノをスタートし、ポンペイ、ドロミテ・アルプスを経てローマに至る21日間。

グランツールで選手に与えられる栄誉は大きく分けて2つある。ステージごとの区間勝利と、特別賞だ。その日までのステージを通じて最速の選手=積算走行時間が最も短い選手に「総合賞」が、コースに設定されたスプリントと山岳ポイントを最も多く収集した選手にそれぞれ「ポイント賞」と「山岳賞」が与えられる。
さらに25歳以下の選手を対象とした「若手総合賞」を加えた4つの特別賞の選手たちは翌日のステージで特別なジャージを着用する。最終ステージ後に大会を通じた成績が確定するという仕組みだ。

総合賞の選手が着用する「マリアローザ(バラ色のジャージの意)」はジロ・デ・イタリアのシンボル。レースを迎え入れる街はマリアローザの色に染まり、華やかに初夏の祝宴を盛り上げる。

ジロはバラ色のマリアローザを中心に進んでいく。

1チームにつきエントリーできる選手の数は8名。決められた時間内にステージを完走できなかった者は次のステージに進むことはできない。3週間を走り切るため、選手たちには脚力、スタミナ、そしてメンタルの高度なマネジメントが求められる。

無論、彼らの相棒となるバイクが担う役割も大きい。S-Works Tarmac SL8はレースを戦う選手たちのために作られている。エアロだけでなく、軽さだけでなく、乗り心地までカバーした最速のバイクだ。個人タイムトライアルではShiv TTが登場する。

選手たちがレースバイクとして使用するTarmac SL8について詳しく >>

全てのバイクはレースに帯同するチームメカニックが選手ひとりひとりに合わせてセットアップを行う。平坦、山岳など地形によってもセッティングが変わるので、是非注目してみてほしい。

注目ステージ

全21ステージ紹介ムービー。

ジロ・デ・イタリアといえば山岳偏重のコースで知られるが、実は今年は例年と比べて山のボリュームは控えめ。また総走行距離も1979年以来最も短い。
これは個人タイムトライアルの距離が合計71.8kmと長いことに起因しており(第7ステージが40.6km、第14ステージが31.2km)、今年のジロはタイムトライアルを得意とする選手に有利なコースと言えそうだ。とはいえ後半にかけては厳しい山岳が立て続けに登場するので、登れない選手に勝ち目はないのだが。

最近の流行なのか、第1ステージから登りが組み込まれる激しいコースが設定された。2日目には早くも大会初の山頂フィニッシュが登場。スプリンターたちのスピードバトルは第3ステージまで待たなければならない。

第6ステージには3つのグラベル(未舗装路)セクションが登場する。最初の2つはストラーデビアンケでも使われるセクションで、最後の区間は新設。合計約12kmの悪名高きトスカーナの白い砂利道は、今年のジロを勝つ資格のない者を容赦なく炙り出すだろう。

このステージではタイヤが大きな役割を果たすはずだ。石畳を走るパリ~ルーベで使用するような特別な機材は必要ない。ただし砂利道でのグリップは必要だから、おそらく28Cのタイヤ(Turbo Cotton、もしくはS-Works Turbo RapidAirだろうか)を使い、空気圧の調整で対応するのだろう。
走るのはグラベルだけではないから、アスファルトでの転がり抵抗も考慮してバランスを見極めなければならない。さらに天気、選手の体重も計算に入れて…この日の影の主役はメカニックかもしれない。

選手たちが使用するS-Works RapidAirについて詳しく >>

パワーとテクニック、そして機材のチューニングが求められる未舗装路。パンクなどのトラブルに見舞われない運も必要。

第15ステージからは山岳3連戦。総合争いが本格化する。今大会の「チーマコッピ(大会最高地点)」の超級ステルヴィオ峠を越える第16ステージを経て、第17ステージでは159kmと距離こそ短いものの5つの山岳が詰め込まれた難易度5つ星の過酷なコースが待ち受ける。1級山岳モンテ・グラッパを2回登る第20ステージが終わるまで、マリアローザを巡る戦いは続く。第21ステージは特別賞の選手たちを中心としたパレードランで始まり、ローマ市街での集団スプリントで長い戦いに幕が下ろされる。

今年のジロの目玉は、何と言ってもタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)の初参戦だろう。ポガチャルは1998年のマルコ・パンターニ以来となるジロとツール・ド・フランスの同年総合優勝を目指しており、データの上では彼を脅かすようなライバルは不在である。
だが、これはジロだ。そこかしこに罠が仕掛けられている、これまで何度も恐るべきカオスが生まれ、驚きの逆転劇が演じられてきた舞台なのだ。結末は常に予想を裏切るものである。予測不可能な21日間を大いに楽しもうではないか。

ここからはスペシャライズドバイクでジロ・デ・イタリアに乗り込む2チームの注目選手をチェックしていく。

注目選手:スーダル・クイックステップ(ベルギー)

スーダル・クイックステップのジロ・デ・イタリア出場メンバー。

青と白のチームキットに身を包み、チームのニックネーム「ウルフパック(狼の群れ)」の通り、集団で狩りをする狼のように個の力とチームワークを掛け合わせて戦うスーダル・クイックステップ。
ジロ・デ・イタリアでチームをリードするのはエーススプリンターの ティム・メルリール(ベルギー) だ。チームは今季13勝を挙げているが、うち7つが彼によるものである。

今季絶好調のメルリール。世界最強スプリンター決定戦と化したシュヘルデプライスでもライバルたちを退けて勝利した。

今年のジロは例年よりも山岳が少ないためか、各チームのスプリントスターらが集結する。特に昨年ポイント賞を獲得したジョナサン・ミラン(イタリア、リドル・トレック)やオラフ・コーイ(オランダ、ヴィスマ・リースアバイク)は強敵だ。
厳しい戦いになるが、スプリンターを抱えるチームが多いほど逃げ切りではなく集団スプリントに持ち込まれるステージは増えるだろうし、難関山岳を生き残るためのグルペット(登りが苦手な選手たちが協力して制限時間内フィニッシュを目指す集団。スプリンターにとっての命綱)も大きくなる。メルリールがステージ勝利を射止める確率も上がるし、ポイント賞を獲得できるチャンスも増えるというわけだ。

フィニッシュ前に意地悪く置かれた短い登りではメルリールを止めることはできない。頼れる発射台の ベルト・ファンレルベルへ(ベルギー) に加えて、このジロでグランツールデビューを飾る新星 ルーク・ランパーティ(アメリカ) が、メルリールを勝利に届けるスプリントトレインの要になるだろう。

ランパーティ(写真右)は21歳の有望株。プロ1年目でキャリア初のグランツールに挑む。

メルリールのスプリントに加えて、丘陵ステージでは先月のアルデンヌクラシックで気を吐いた マウリ・ファンセヴェナント(ベルギー) で勝利を狙う。頼れるベテランの ヤン・ヒルト(チェコ) とともに、総合成績でも上位に食い込みたい。


そして忘れてはならないのが、我らが「ルル(狼ちゃんの意)」こと ジュリアン・アラフィリップ(フランス) 。遅いジロデビューを飾る彼もステージ勝利を目指す1人。もし勝つことができれば、栄誉ある全グランツールステージ勝利選手の仲間入りだ。

昨年のジャパンカップを走ったアラフィリップ(写真左) 朗らかな性格と熱い走りの人気者だ。

注目選手:ボーラ・ハンスグローエ(ドイツ)

ボーラ・ハンスグローエのジロ・デ・イタリア出場メンバー。

ボーラ・ハンスグローエに所属する2人のジロ・デ・イタリア覇者、つまり ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)、そして今季加入した プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)は7月のツール・ド・フランスに集中する。今年チームを率いるのは、 ダニエル・マルティネス(コロンビア)だ。

今季からボーラ・ハンスグローエに合流した28歳が目指すのは総合表彰台。ジロ・デ・イタリアへの出場は3年ぶりで、前回の2021年大会ではチームメイトのエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)を総合優勝に導く名アシストを演じながら、自身も総合5位に入賞した。登りに強く、今年2月のボルタ・アン・アルガルヴェでは、あのレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)との登坂スプリント対決を制して勝利を飾っている。
3月のティレーノ~アドリアティコ最終第7ステージを膝の不調で欠場しており、ジロが2ヶ月ぶりの復帰レースとなるが、山岳での争いが本格化する後半までに復調できれば、主役の1人になれるはずだ。

マルティネスは個人タイムトライアルステージではナショナルチャンピオンの証である特別ジャージを着用する。

マルティネスを支えるのはイタリアンクライマーの ジョヴァンニ・アレオッティマキシミリアン・シャフマン(ドイツ)、そしてこのジロがグランツールデビュー戦となる フロリアン・リポヴィッツ(ドイツ)
バイアスロン選手の経歴を持つリポヴィッツは(ちなみにボーラ・ハンスグローエには他競技からの転向選手が他にもいる。アントン・パルツァーはスキーマウンテニアリングのトップ選手だったし、ログリッチは元スキージャンパーだ)2000年生まれの23歳で、育成チームからトレーニーを経て昨年からチームに正式加入。

先日開催されたツール・ド・ロマンディではクイーンステージで東京五輪ロードレース金メダリストのリチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト)と区間優勝を争う好走を見せ、総合成績でも3位と大健闘。今大会の注目株になること間違いなし、是非とも名前を覚えておいてほしい選手だ。

前哨戦ロマンディで驚異の走りを見せたリポヴィッツ。登坂に強く、スプリント力も併せ持つ。

※コース、出場選手等の情報は2024年5月1日時点のものです。

ジロ・デ・イタリア2024 stage1-9リキャップ はこちらから! >


【筆者紹介】
文章:池田 綾(アヤフィリップ)
ロードレース観戦と自転車旅を愛するサイクリングライター。名前の通りジュリアン・アラフィリップの大ファン。

池田 綾さんの記事はこちらから>


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