ツール・ド・フランス2024 stage16-21リキャップ

ツール・ド・フランス2024 stage16-21リキャップ

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ツールはフィナーレへ。1人のスペシャライズドライダーが、未来に繋がる扉を開きました。

©CAuldPhoto

終わってみれば、タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)のツール・ド・フランスだった。

1998年のマルコ・パンターニ以来初となるジロ・デ・イタリアとの同年制覇「ダブルツール」を達成。最大のライバルであるヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)も、ポガチャルを止めることはできなかった。この2人が総合表彰台の1位と2位を分け合うのは、4年連続だ。

ポガチャルとヴィンゲゴーの他にも、多くの選手が世界最高の舞台で素晴らしい走りを披露した。

初出場のツール・ド・フランスを総合3位で終え、ヤングライダー賞(今年25歳以下の選手を対象とした総合賞)を獲得したレムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)もその1人だ。

ヴィンゲゴー(写真左)、ポガチャル(写真中央)とともに総合表彰台に上がったエヴェネプール(写真右)。©CAuldPhoto

確かに、エヴェネプールのツール・ド・フランス初出場のニュースは、発表直後から注目を集めてはいた。一方、母国ベルギーでは彼の資質と実力を疑う声もあった。

グランツールの本質は、21日間という極めて長い期間における心身とエネルギーのマネジメントにある。派手なアタックや独走は、あくまでも付随的なものだ。エヴェネプールはこのことを、他人から言われるまでもなく、過去の経験から学んでいた。

バッドデイと言われるコンディション不調は、ペース配分が適切でなかった時にやって来る。だから彼は決して自分の力を無駄に使うことをせず、ポガチャルとヴィンゲゴー以外の全ての選手からタイムを奪いながら、冷静に3週間を走り抜けた。レースが進むにつれて、批判の声は小さくなっていった。

エヴェネプールはヤングライダー賞に与えられるマイヨブラン(白いジャージの意)を2日目に獲得、最終日まで着用し続けた。©CAuldPhoto

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精密な走りをしていても、エヴェネプールが本来の攻撃性を失うことはなかった。
第17ステージでは終盤の登りでアタックし、逃げグループに入って先行していたヤン・ヒルト(チェコ)のアシストを受けながら全力疾走。
今大会初めてポガチャルに先着し、ポガチャルから10秒、そして直接のライバルだったヴィンゲゴーから12秒を奪い取った。

たったの10秒。

だが、ほんの短い時間であっても、エヴェネプールが近代ツールを象徴する2人を置き去りにしたことは、大きな意味を持つ。

登りで攻撃的な走りを見せたエヴェネプール。ドライコンディションではしなやかで速いTurbo Cottonを愛用。©CAuldPhoto

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大会最後の山岳ステージである第20ステージでは、チームの総力を結集してライバルたちに戦いを挑んだ。

難関山岳で隊列を組み集団を牽引する様は、チームの愛称である「ウルフパック(狼の群れ)」による狩りを想起させた。

若きリーダーのためにジャンニ・モスコン(イタリア)、イラン・ファンウィルデル(ベルギー)が全てを振り絞る走りを見せ、最後はミケル・ランダ(スペイン)が猛烈なペースアップを図る。先頭を走る逃げグループとの差を1分に縮めたところで、エヴェネプールが渾身のアタックを放った。

これまで見せていたクレバーな走りを捨て、大勝負に出たエヴェネプール。©CAuldPhoto

これまで温存していた力をなげうつアタックは、エヴェネプールにとって大胆な賭けだった。

前日、ヴィンゲゴーはエヴェネプールの背後で不調に苦しんでいた。今ならば、勝てるかもしれない。だがポガチャルもヴィンゲゴーも即座に反応してきた。

もう1回。


慎重に避けてきたレッドゾーンに踏み込む、2度目のアタック。それでも2人を引き離すことはできない。反撃として繰り出されたヴィンゲゴーの加速に、エヴェネプールは対応できなかった。ヴィンゲゴーとポガチャルの背中が遠ざかっていく。

このツールで初めて、エヴェネプールが崩れた瞬間だった。

戦わずして退く選択肢は、エヴェネプールにはない。例え、それが実らなくても。©CAuldPhoto

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しかし、エヴェネプールに後悔はない。

確かに、ポガチャルとヴィンゲゴーを倒すことはできなかった。だが自分は現時点でのベストを尽くしたし、チームもそうだ。

2人のツール・ド・フランス優勝経験者に追いつくためには、まだやらなければならないことがある。強くなることは、新たな弱さを発見することでもある。
この数年、エヴェネプールは自分の弱さを見つけ、ひとつずつ克服し、自分の最高を更新してきた。これからも、それを繰り返して、頂点に近づいていくのだ。

長く美しい冒険を支えたチームメイトたちが、最後の走りを終えたエヴェネプールをあたたかく迎える。©CYCLINGIMAGES

ツール・ド・フランスはもはや、ポガチャルとヴィンゲゴー2人だけの物語ではない。今年から、新たな主役が加わった。


彼の名前はレムコ・エヴェネプール。

これから紡がれるツールの歴史に、名前を残す選手だ。


落車によりエースであるプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)を失ったレッドブル・ボーラ・ハンスグローエの3週目は、ステージ勝利を目指す総力戦だった。

ほぼ毎日、レース直後から集団先頭に位置取り、逃げからの勝機を伺い続けた。だが、総合上位勢の争いは激しく、そこから散った火花が逃げる選手たちの希望を焼き尽くした。

ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)を含む複数のグランツール総合優勝経験者で構成されたグループですら、逃げ切ることができない日もあった。

チームにたった1人残ったクライマーのヒンドレーは、山岳ステージで逃げ続けた。©CAuldPhoto

10のチームが未勝利のままツール・ド・フランスを去った。
残念ながら、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエもそのうちの1つだ。

このツールでは、彼らが望んでいたレースをすることは叶わなかった。
だが、時間は止まらず進んでいく。ログリッチもチームも傷を癒し、新しい目標に向かっていくだろう。

フランスの熱い夏はまだ終わらない。

この後はパリ五輪、そして女子選手たちによるツール・ド・フランス・ファム・アヴェク・ズイフトが待っている。


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【筆者紹介】
文章:池田 綾(アヤフィリップ)
ロードレース観戦と自転車旅を愛するサイクリングライター。名前の通りジュリアン・アラフィリップの大ファン。