【TIMEペダル徹底解剖】なぜ「膝に優しい」のか?ICLIC機構の真価とXPROの進化をショップ視点で語る

  • 公開:2026.09.17
  • 更新:2026.09.17

「TIME=膝に優しいペダル」──ロードバイクに長く乗っている方なら、一度はこの言葉を耳にしたことがあるはずです。実際、プロ・アマ問わず「膝の痛みに悩んでTIMEに行き着いた」「他のペダルに変えたら関節に違和感が出てTIMEに戻した」というライダーは後を絶ちません。

しかし、なぜTIMEだけがそう呼ばれるのか、そのメカニズムをご存知でしょうか? 今回はTIMEペダルの核心である「バイオポジション設計」、特許技術「ICLIC(アイクリック)」の内部構造、そして最新「XPRO」シリーズの進化点まで、ショップ目線で徹底的に掘り下げます。

TIMEペダルの歴史:プロの「膝の痛み」を救うために生まれたブランド

4大メジャーペダルメーカーに関して深堀りしていくトップバッターはTIMEです。

2026年の自転車ロードレースのトップカテゴリーであるワールドチーム18チームのうち、TIMEペダル使用チームは1チームのみです。そういう点では超マイナーブランドです。しかしそれは必ずしも性能的に劣っているというわけではなく、資本力の問題が大きいです。

しかし、歴史的にはLOOK/TIMEというのは二大巨頭でした。

ビンディングペダル(クリップレスペダル)の歴史は、1980年代半ばにLOOKがスキー用ビンディング技術を応用したことで始まりました。従来の「トークリップ&ストラップ」から解放されたペダルは革命的でしたが、当時の初期型ペダルには大きな問題がありました。「足を完全に一点でロックしてしまうため、プロ選手たちの膝関節に激痛や故障が多発した」のです。

この問題を解決すべく立ち上がったのが、TIMEでした。

  • 1987年の創業と「TBT」ペダルの衝撃: 「人間の関節の自然な動きを妨げてはならない」という信念のもと、1987年にフランスでTIMEを設立。翌1988年に発表した初代ペダル「TBT(Time Bioposition Total)」は、足裏とペダル軸の距離を極限まで近づけ、角度だけでなく左右への自由なスライド(並進フロート)を世界で初めて本格導入しました。
  • ツール・ド・フランスを支配した伝説: TIMEの登場はプロ界を席巻します。膝の故障から復帰したグレッグ・レモンが1989年のツール・ド・フランス最終日の個人TTで劇的な8秒差逆転総合優勝を果たした足元には、TIMEがありました。さらに1991年から1995年にかけてツール5連覇を達成したミゲル・インデュラインの偉業を支えたのもTIMEでした。
  • ICLIC革命とSRAMファミリーへの合流: その後、金属スプリングからカーボンブレードへと進化させ、踏み込む力ゼロで嵌まる特許機構「ICLIC」を開発。「RXS」「XPRESSO」といった名作を経て、現在のフラッグシップ「XPRO」へと昇華しました。2021年には大手コンポーネントメーカーのSRAMグループ傘下に入ったことで、製造精度や品質管理、供給体制が一段と強化され、現在も世界中のサイクリストに愛され続けています。

「機材に合わせて人間が我慢するのではなく、機材が人間の関節に寄り添うべき」──。 この創業以来35年以上変わらない基本哲学が、今なお「膝に優しいペダル」と呼ばれる所以です。

Greg Lemond – – foto Cor Vos ©2004
cyclist.co.uk より

Greg LemondもMiguel Indurainも足元は常にTIMEペダルでした。

なぜ膝を痛めないのか?「バイオポジション」の真実

多くのペダルが「バイクへのパワー伝達」を最優先に設計されているのに対し、TIMEは創業当初から「ペダル側が人間の関節運動に寄り添うべき」というバイオメカニクス(生体力学)思想を貫いています。その中核をなすのが独自のフローティング機構です。

① 「角度フロート」+「左右並進(ラテラル)フロート」の二重構造

他社ペダル(シマノやLOOKなど)のフローティングは、ペダル軸の中心を基準にシューズが扇状に回転する「角度フロート」が基本です。

しかし、人間の膝関節はクランクが回転する際、単純な回転運動をしているわけではありません。踏み込み(1時〜3時)から引き足(6時〜9時)にかけて、大腿骨に対して脛骨がわずかに回旋し、足裏の位置もミリ単位で内外にシフトしようとします。

TIMEは角度(±5度)だけでなく、左右への平行移動(ラテラルフロート:約2.5mm幅)を許容します。足裏が左右にスライドできるため、ペダリング軌道で発生する関節のねじれストレスをペダル側が逃がしてくれます。これが、腸脛靭帯炎(ランナー膝)や膝蓋骨周辺の痛みに劇的な効果を発揮する最大の理由です。

② 「セルフセンタリング機構」によるスタビリティ

TIMEのフロートは、単に「スカスカ・ツルツル」と無抵抗に動くわけではありません。カーボンスプリングの弾性によって「常に自然な中心(ニュートラル位置)に戻ろうとする復元力」が働いています。

この絶妙な戻りバネのチューニングがあるからこそ、「氷の上を滑るように自由なのに、しっかり踏める」という独特のフィーリングが生まれます。

③ クリートの左右入れ替えでQファクターを変更可能

TIMEのICLICクリートは左右非対称形状になっており、「右用クリートを左足に、左用クリートを右足に」付け替えることで、ペダル軸と足裏の中心距離(Qファクター)を 51.7mm または 54.3mm(差:2.6mm) に変更できます。スペーサーを噛ませることなく、骨盤の幅やペダリングの癖に合わせてスタンス幅を簡単に最適化できる優れた設計です。

踏み込む力ゼロで嵌まる「ICLIC(アイクリック)」のメカニズム

TIMEを語る上で欠かせないもう一つの革命が、特許取得のステップイン機構「ICLIC」です。

「押し広げる」のではなく「罠にかける」プリロード構造

一般的なロードペダル(シマノやLOOK)は、後部の金属スプリングやカーボンブレードを、シューズ底のクリートで「グッ」と力任せに押し広げてパチンと嵌め込みます。そのため、固定力を強めるとステップインも重くなります。

対してTIMEのICLICは、「ネズミ捕りのトラップ」と同じ構造です。

  1. ペダルから足を外した(ステップアウトした)瞬間、内部トリガーが作動。
  2. カーボンブレードがたわんだまま、保持アームが最初から開いた状態(プリオープン)でロックされて待機。
  3. 次に乗るときは、クリート先端を引っ掛けて足をそっと乗せるだけ。
  4. クリート後部がトリガーに触れた瞬間、ロックが解除され、カーボンブレードの弾性で「カシャッ」と一瞬で自動クローズ。

ライダー側がバネを押し広げるエネルギーを必要としないため、体重の軽いライダーや女性でもペダルを真下に踏み下ろす必要がありません。特に「激坂の途中で止まってしまい、クリートを嵌め直して再発進するシチュエーション」や、疲労困憊したロングライド終盤の信号スタートにおいて、ミスなく一瞬でキャッチできる安心感は圧倒的です。

XPRESSOから「XPRO」へ──現代ハイエンドへの進化点

前世代の「XPRESSO(エクスプレッソ)」から現行の「XPRO(エックスプロ)」へとフルモデルチェンジしたことで、TIMEペダルは信頼性と空力性能を大きく引き上げました。

① 725mm²という広大な接地面積

XPROの接触面積は725mm²。シマノ DURA-ACE(約600mm²)やLOOK Keo Blade(705mm²)をも凌ぐクラストップレベルの広さです。

ペダルとシューズ底が広い面でコンタクトするため、パワー伝達効率が高まるだけでなく、足裏の特定箇所に圧力が集中する「ホットスポット(足裏のしびれ・局所痛)」を強力に防ぎます。

② 下面カーボンエアロフェアリングによる保護

旧XPRESSO最大の弱点は、むき出しになった下面のカーボンブレードでした。コーナリング時にペダルを路面にヒットさせたり、跳ね石が当たったりしてブレードを破損するトラブルが稀に見られました。

現行XPROでは、ペダル底面にフルカーボン製のエアロカバー(フェアリング)を装備。下面の気流を整えてエアロダイナミクスを向上させると同時に、心臓部であるカーボンブレードを外部の衝撃から強固に守る構造へと進化しています。

③ スタックハイト13.5mmのダイレクト感

ペダル軸の中心からシューズソールまでの距離(スタックハイト)は13.5mmと極めて薄型。足裏の直下に回転軸を感じられるため、ペダリングの引き足・送り出しが滑らかになり、無駄なロスを極限まで削ぎ落としています。

ショップ目線で伝える「TIME運用のリアルと注意点」

メリット尽くしに見えるTIMEですが、導入にあたって知っておくべき「運用のコツ」や「注意点」も存在します。

  • クリートの摩耗管理:TIMEのICLICクリートは歩行性を考慮した樹脂製ですが、シマノの青・黄クリート等に比べるとアスファルト歩行時の減りがやや早めです。特にクリート先端のノーズ部や後部のトリガー接触部が摩耗すると、ステップインの軽快感が損なわれたりガタつきの原因になります。初期性能が落ちたと感じる前の交換を強く推奨します。
  • ブレードテンションの初期設定:XPROはペダル側面のカムを回転させることで、カーボンブレードのテンションを3段階で調整できます。新品時はまず「ポジション1(最弱)」から試してください。TIMEは構造上、最弱テンションでも走行中に意図せず外れることはまずありません
  • 「固定されている感」の認識ギャップ:シマノの金属的なカチッとしたホールド感に慣れていると、乗り始めの数十分は「足元が左右に動いて頼りない?」と感じる場合があります。しかし、1回ロングライド(50〜100km)を走ると、足首と膝が自然な軌道で無理なく回り、ライド後の脚の疲労感が驚くほど軽いことに気付くはずです。
  • ベアリングのメンテナンス:ベアリングの耐久性は非常に高いとは言えません。ただショップでベアリグの掃除・グリスアップはできるので定期的なメンテナンスを推奨します。足をはずした時にペダルが毎回同じ方向を向かなくなったらメンテナンスを!

5現行XPROシリーズ:どれを選ぶべきか?

モデルシャフト素材ベアリングカタログ重量(ペア)特徴・おすすめライダー
XPRO 10中空スチールスチール226g最もおすすめの主力機。 剛性と耐久性に優れ、日常使いからレースまでカバーする高コスパモデル。
XPRO 12チタンスチール188gチタン軸を採用しアンダー190gを達成。軽快な回転感と高い剛性を両立した実戦派レーサー向け。
XPRO 12 SL中空チタンセラミック176g究極の超軽量フラッグシップ。ヒルクライム決戦用や、バイクの限界軽量化を狙うライダーへ。

※ TIMEはシマノ・LOOKよりもクリートが重いので、ペダル重量だけを比較して軽量化になる!というわけではありません。

おまけ 高岡にとってのTIMEペダル

1990年代に高校時代のアイドルだったインデュラインがTIMEペダルユーザーだったのと、当時一番の練習仲間であった鈴木真理選手がプロチームに入るまで一貫してTIMEペダルを使っていた事により、TIMEペダルのイメージが出来上がりました。
強い人はTIMEを使っている。TIMEを使えば強くなれる!そう思っていました。

と言っても学生時代まではなぜかTIME以外のペダルを使用することが多かったです。

2006年に社会人レーサーとして再開した時にTIMEペダルを使い始め、それ以降TIMEペダル一筋でした。ツールドおきなわも2019年までの6回は全部TIMEペダルで勝っていました。

それでもなぜ近年LOOKやシマノペダルに浮気しているのか?
TIMEは動きのクセを許容・吸収してくれる優しさがあるけど、本来的にはクセや無駄な動きは排除した方がきれいなペダリングになるのではないかと思い、許容範囲の狭いLOOKなどでペダリングを矯正しようという意図があり、ここ数年TIMEを離れていました。

なぜ最近TIMEに戻ったのか?
一番はダンシングのしやすさ。シッティングに比べて非常にダイナミック(動的)なダンシング時に、TIMEペダルの踏みやすさが感じられます。動くのだけどセンタリング機能が非常に絶妙です。これは昔のTIMEよりも最近のiClicになってさらに良くなりました。
またLOOKやシマノペダルを使ってトレーニングして、またTIMEに戻ってきたことも決して無駄ではないと思ってます。ペダリング矯正ー開放を行き来することにより理想のペダリングに近づいていくのではないかと思っています。

※2026年9月時点でまたTIMEペダルユーザーに戻りましたが、またいつ他のペダルを使うかわかりません。

まとめ:TIMEはどんなライダーにおすすめか?

  • 膝・股関節・足首など、関節の痛みや違和感に悩まされている方
  • ブルベやロングライドで、後半まで脚と関節の疲労を残したくない方
  • 発進時のステップインが苦手で、下を見ずにスッと嵌めたい方
  • ヒルクライムに向けて、足元の回転マスを極限まで軽量化したい方

TIMEは単なるペダルではなく、「身体のバイオメカニクスを突き詰めたエルゴノミックパーツ」です。現在お使いのペダルで少しでも膝まわりにストレスを感じているなら、試す価値は間違いなくあります。

店頭では実物サンプルのご確認や、シューズへのクリート取り付け角度のフィッティングも行っております。お気軽にご相談ください!

(次回は、ビンディングペダルのパイオニアにしてロードレースの王道「LOOK」を深掘りします。お楽しみに!)

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