ツール・ド・フランス2024 stage10-15リキャップ

ツール・ド・フランス2024 stage10-15リキャップ

  • イベントレポート

ツールはいよいよクライマックスへ。スペシャライズドライダーたちの現在地を確認しておきましょう。

©CYCLINGIMAGES

ツール・ド・フランス2週目が終わった。

タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)の勢いは止まらず、最大のライバルであるヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)に約3分の差をつけ、3年ぶり3度目の総合優勝に近づきつつある。

スペシャライズドライダーの2人は明暗を分けた。

レムコ・エヴェネプール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)は第15ステージを終え、ポガチャルとヴィンゲゴーに続く総合3位。今ツールにおける「第三の男」の座を確たるものにしている。

一方、プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)は第12ステージで落車。チームの必死の牽引でタイムを失いながらフィニッシュしたものの、ダメージは大きく、翌日ツールを去ることになった。

ログリッチの退場により四強体制は崩れ、残る3人のパワーバランスも変わった。ポガチャルの猛攻に対して時にログリッチと共闘してきたヴィンゲゴーもエヴェネプールも、ピレネーでは孤独な戦いを強いられた。ここから先は、それぞれのチームとエースによる総力戦だ。


今ツール最初の山頂フィニッシュが登場したピレネー2連戦、第14ステージと第15ステージについて振り返っていこう。これまで難関山岳で大きくタイムを失うことが多かったエヴェネプールにとっては、乗り越えなければならない試練の2日間だった。

エヴェネプールが目指すのは最終日ニースでの表彰台、すなわち総合3位。今ツールでのベストライダーはやはりポガチャルとヴィンゲゴーで、「2人は別の惑星で戦っているようなもの」とエヴェネプールも認めている。だから山岳で飛び去った2人を無理に追うことはせず、自分のペースを貫くことに集中した。

決してレッドゾーンに踏み込まず、しかし持てる力の全てをフィニッシュラインまで出し切る。それはまさに彼の得意とするタイムトライアルの走りであり、バイクを降りた後にメディアを盛り上げる大らかで無邪気なコメントとは対照的に、驚くほど緻密で計算高いものだった。

エヴェネプールはエアロでありながら涼しいS-Works Evade3ヘルメットを愛用。©CYCLINGIMAGES

空力性能と通風性を両立するヘルメットS-Works Evade3について詳しく >

結果は第14ステージ、第15ステージとも区間3位。
ただし、これが非凡な走りであることは記しておきたい。

なぜなら、エヴェネプールは両ステージでポガチャルとヴィンゲゴー以外の全ての選手からタイムを奪っているからだ。

また、第15ステージの最後に登場した超級山岳プラトー・デ・ベイユで、かのマルコ・パンターニにより打ち立てられた登坂記録(43分28秒)を上回ったのは、ポガチャル(39分58秒)、ヴィンゲゴー(41分06秒)、そしてエヴェネプール(42分49秒)の3人だけなのだから。

表彰台を射程圏内に捉えるエヴェネプール。大崩れせずに3週目を走り切れれば、彼の勝ちだ。©CYCLINGIMAGES

ログリッチの落車は、不運な事故としか言いようがないものだった。

ツールのような長期間に渡るステージレースの結果は、位置取りや補給の内容、タイミングなど、チームがあらゆる瞬間に下す膨大な数の小さな決断によって成り立っている。最良の選択をし続けることが重要で、そうでない選択が積み重なって取り返しのつかない結果を招く世界である。

あの落車が連鎖するような混沌の中でも、別の場所を走っていれば、ログリッチの前に彼を守る別の選手がいれば、違う結果になったのかもしれない。
だが時計を巻き戻すことはできないし、答え合わせができるのもレースが終わってから。
それに、あの時だって、誰もが正しい判断をしようと最善を尽くしていたことは、疑いようのない事実なのだ。

ツール続行を断念したログリッチ。だが彼は不屈のファイターであり、傷を癒してから新しい挑戦に再び身を投じるはずだ。©CAuldPhoto

グラベルステージで落車し足首を骨折したアレクサンドル・ウラソフに続き、絶対エースであるログリッチを失ったレッドブル・ボーラ・ハンスグローエは、少し時間をかけてその事実を飲み込んだ。
そして、2週目の最終日に反撃に出た。

フランス革命記念日という特別な日に設定された第15ステージは、距離約200km、獲得標高約5,000m。ドラマを作るのに、これ以上ふさわしい舞台はない。

チームに残された6人のうち、登れる脚を持つ4人が動いた。ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)、ニコ・デンツ(ドイツ)、マッテオ・ソブレロ(イタリア)、そしてジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)がスタート直後から積極的に逃げ集団を形成、牽引し続けたのだ。

2年前のジロ・デ・イタリア覇者であり、昨年マイヨジョーヌを着用したヒンドレーでステージ勝利を狙うプランだったが、残念ながら実現はしなかった。
区間勝利を狙うヴィンゲゴーを擁するヴィスマ・リースアバイクがハイペースで逃げグループを追いかけ、最後は全てを飲み込んでしまったからだ。

この日Tarmac SL8と全力で走り続けたヒンドレー。彼はチームに残された山岳での最強のカードでもある。©CYCLINGIMAGES

選手とともにツールの難関山岳に挑むTarmac SL8について詳しく>

でも、彼らに後悔はない。もちろん結果は重要だが、それよりも自分のベストを尽くすことがずっと大事で、この日は全員がそうしたからだ。この考え方は、彼らのリーダーであるログリッチの哲学でもある。

レッドブル・ボーラ・ハンスグローエは、3週目にもこの哲学を実践するはずだ。

3週目は昨年のジロで逃げ切り勝利を2度決めたデンツに注目。第17ステージと第18ステージは彼向きのコースだ。©CYCLINGIMAGES


ツール・ド・フランスも残り6日。だが難関山岳ステージはあと2つ残っているし(第19ステージと第20ステージ)、最終日は個人タイムトライアル。結末がシナリオに書かれるのは、これからだ。


関連記事:

> ツール・ド・フランス2024 第10ステージ現地レポート
@北海道エクスペリエンスセンター(別ウィンドウで開きます)


ツール・ド・フランス2024 stage1-9リキャップ(2024年7月9日)
Yellow Odyssey ツール・ド・フランス2024 プレビュー(2024年6月27日)
ジロ・デ・イタリア 2024 をまとめてプレイバック!(2024年5月)
New Season, New Ambition|スペシャライズドサポートチームの2024シーズン展望(2024年1月15日)


【筆者紹介】
文章:池田 綾(アヤフィリップ)
ロードレース観戦と自転車旅を愛するサイクリングライター。名前の通りジュリアン・アラフィリップの大ファン。