こんにちは、スペシャライズド箕面 店長の藤木です。
「自転車と生き方と。」は、スペシャライズド箕面で働くスタッフの人となりをお客様へ知っていただくために始めたシリーズブログです。
今回は第二弾として”私の膝とスペシャライズド”をお送りいたします。
第一弾の”中の人を紹介”編はこちらからどうぞ。
私の過去から現在、その中にあった苦悩やスペシャライズドとの出会い、そして復活までを赤裸々につづりました。
ぜひ最後までお付き合いください。
第一弾でも少し触れましたが、私は大学時代にトライアスロンへ転向しました。
スイムが苦手だったこともあり、競技生活は決して順風満帆とは言えませんでした。
それでも、ランの成長が大きな転機をもたらしてくれました。
そんな折に出会ったのが”デュアスロン”。
この競技との出会いから、私は日本代表として世界選手権への出場を果たすことができたのです。
翌年も代表権を目指して練習を重ねましたが、次第に膝の不調が表れはじめました。
整体やスポーツ外科での治療を受けながら、痛みをごまかすようにして練習を続け、国内レースにも無理を押して出場しました。
―その無理が、のちに何年も自分を苦しめることになるとは、当時の私はまだ知る由もなかったのです。
予定していたレースを無事に終え、出場権も手にすることができました。
しかし、就職活動や金銭的な事情から、そのレースへの出場を断念せざるを得ませんでした。
その夏の終わり、再び練習を再開しましたが、膝の状態は回復どころか、むしろ悪化していきました。
ついには膝に水が溜まるようになったのです。
病院では「安静にすれば治る」と言われましたが、実際には少し走るだけで痛みがぶり返し、また水が溜まる――その繰り返し。
ひどい時には膝がまったく曲がらず、家の階段を這うようにして上るしかありませんでした。
さらに悪いことに、その影響は自転車にも及びました。
以前は問題なかった高強度のライドでも、痛みが出るようになってしまったのです。
結局、在学中は一度も思うような練習を積むことがでないまま、卒業を迎えることになりました。
卒業後も、社会人アスリートとしてもう一度挑戦したいという強い思いがありました。
そのために、専門的な治療を受けながら、日々練習に励むことにしました。
膝への不安から、まずはランニングを避け、スイムとバイクに専念。
治療の効果もあってか、次第に100kmほどのライドであれば、高強度でも痛みなく走れるようになっていきました。
そしてこの頃から、ランニングも短い距離であればコンスタントにこなせるように。
少しずつですが、確かな手応えを感じていました。
「トライアスロン復帰も現実味を帯びてきたかもしれない。」
そう思えるようになったのは、トレーニングを重ねた約1年半後、まだまだ暑い夏のことでした。
そんな夏が終わり、秋が深まり始めた頃――
冬の気配が感じられる前に、すべてを覆す出来事が起きました。
ひょんなことから、120kmほどのグループライドに参加することに。
膝の不安はどこかに追いやり、軽い気持ちでペダルを踏み出しました。
ところが、出発から30kmほど走った集合場所に到着した時点で、膝にかすかな違和感を覚えたのです。
とはいえ、大人数でのライドということもあり、引き返すという選択肢はありませんでした。
そのまま走り続けましたが、折り返し地点にも届かないうちに、膝に鋭い痛みが走り始めました。
昼食をとる頃には、我慢できる限界をとうに超えており、ついに途中離脱を決意します。
自宅までは、最短でも50km。
下り坂や平坦な道は片足だけでペダルを回し、登り坂は脚を引きずるように歩きました。
ようやく家にたどり着いたのは日暮れ前、心身ともにすっかり疲れ果てていました。
なぜ、こんなことになってしまったのか。
自分がただただ情けなく、あの頃のようには戻れないのだと痛感しました。
そしてこの日を境に、私はスポーツマンとしての誇りを失い、深く傷つけられたのです。
それは、トライアスロンから、そして自転車という楽しみから、静かに身を引いた瞬間でもありました。
悲観したまま、時が過ぎ――
気づけば、あの日からもうすぐ二年が経とうとしていた頃。
そんな私に、ある転機が訪れます。
それが、スペシャライズドとの出会いでした。
もちろん、その存在は以前から知っていました。
けれど、これまで直接関わることは一切なく、私にとってはどこか遠い、未知の存在。
そんな中で手にしたのが、当時自転車界の話題を席巻していた TARMAC SL7 でした。
初めてそのバイクに跨った瞬間の感覚は、今でも鮮明に覚えています。
信じられないほど軽やかに、まるで意志を持っているかのように進んでいく――
その体験は、13歳の春、初めてロードバイクに乗った日のことを思い出させてくれました。
ずっと曇っていた心に、小さな灯がともった気がしたのです。
その後も、スペシャライズドのシューズやサドルなど、人体工学に基づいた数々のエキップメントに触れ、その完成度と快適さに、日々驚かされ続けました。
そして、人生で初めてのバイクフィッティングを受け、さらには自ら学び、フィッターとしての道へ。
バイクと、自分自身の身体に向き合う時間が、自然と増えていきました。
気づけば、いつしか失われていた自転車を愉しむ心が、少しずつ、でも確かに戻ってきていたのです。
そしてその後、私は現在のスペシャライズド箕面へと異動することになりました。
私が完全に立ち直るきっかけ――それは、まさにここ、箕面から始まったのです。
転機となったのは、スペシャライズドが企画した「Together We Ride チャレンジ」。
このプロジェクトを機に、片道約20kmの自転車通勤に本気で取り組むようになりました。
毎日、ただ淡々とペダルを回す。
けれど、その繰り返しの中に、かつて味わったはずの走る愉しさが、少しずつ心に満ちていくのを感じていたのです。
またお店で開催するライドイベントでは、多くのお客様と出逢い、沢山の刺激をいただきました。
誰かと一緒に走ることの喜び、本気で走ることの爽快感――
忘れかけていた「タイム」や「パフォーマンス」を追い求める楽しさが、再び私の中で息を吹き返してきました。
気がつけば、”もっと速くなりたい”という純粋な気持ちが、自然と湧いてきていたのです。
そして、今の愛車である TARMAC SL8 は、その思いに応えてくれる最高の相棒となっています。
あのとき、心にともった小さな灯。
それは、大きな焔(ほのお)となって、私の中で力強く燃え上がりました。
走る喜び、自転車を愉しむ心を取り戻した私でしたが、
それでも「トライアスロン復帰」までは、正直、考えていませんでした。
そんなある日。
お店のイベントに参加されたお客様から、「今年トライアスロンに挑戦しようと思っているんです」とお話をいただきました。
そのときは、かつての経験者として、少しでもアドバイスやサポートができれば…という程度に考えていました。
ところが、その大会は台風によって中止となり、お客様は出場されることなくシーズンを終えることに。
なぜかそのとき、私の中にふと浮かんだのです。
「じゃあ、来年は一緒に再挑戦しよう」と。
思いつきに近い感情でしたが、すぐにその想いをお客様に伝えました。
さらに、もうお一人方も巻き込んで、来年への挑戦が動き出したのです。
自分が言い出したからには、行動しなければ――
そう思い、今年の1月からトライアスロン練習会をスタートさせました。
数年ぶりに泳ぐスイムは、正直しんどかった。
けれど少しずつ距離を伸ばし、ついには2000mを泳げるようになりました。
「継続は力なり」とはよく言ったもので、日に日に成長を実感することができたのです。
ランニングは相変わらず膝に不安がありましたが、昔のように無理をせず、
「焦らず、マイペースで」――そう決めて、ゆっくりと取り組みました。
そして迎えた本番当日。
実に8年ぶりとなるトライアスロン。
会場の雰囲気、スタート前の緊張感。
それらすべてが懐かしく、「ああ、帰ってきたんだな」と、自分自身で実感していました。
とはいえ直前になって、ウエットスーツが劣化で縮んで着用できず、結局ウエットなしでスイム。
バイクでは心拍数が200を超え、ランではやはり膝の痛みがぶり返し、歩いているのか走っているのか…
お世辞にも“完璧なレース”とは言えませんし、他の人から見れば「散々な内容」だったかもしれません。
それでも私は、心の底から楽しかった。嬉しかった。
最高に辛くて、最高に苦しい、あのトライアスロンの時間を、もう一度過ごすことができたのだから。
8年ぶりにトライアスロンの世界に戻った私は、新たな目標を打ち立てました。
それが、ミドルディスタンスへの挑戦です。
学生時代は、オリンピックディスタンスを主戦場としていたため、ミドル〜ロングの距離はまったくの未経験。
特に、ミドルになるとランの距離がさらに長くなるため膝の不調は一刻も早く解決させておきたいところ。
そんな中、これもまたスペシャライズドを通じた素敵な出会いから好転を始めたのです。
偶然にも、当店のお客様でスポーツメディカルクリニックを経営されており、別の方の紹介で施術を受けに伺うことになりました。
膝の状態について丁寧に話を聞いていただき、施術をしていただいた結果――
「状態はそこまで悪くなく、適切な施術とストレッチで十分に走れるはず」との診断。
そして驚くことに、数回の施術を受けてから、本当に走れるようになったのです。
今では、10km以上の距離を問題なく走れるまでに回復しました。
こうして私は、ようやく長く続いた膝の苦しみから解放されたのです。
もちろん、過去に痛めた経験がある以上、これからも継続的なケアと、慎重なトレーニング管理は欠かせません。
けれど今は、それすらも「前に進むための一部」として、ポジティブに捉えられるようになりました。
今回の出会いもまた、スペシャライズドが繋いでくれたご縁でした。
このブランドを通じて出会った方々との繋がりが、私の人生を、そして時には他の誰かの人生までも、少しずつ動かしはじめているのを感じています。
スペシャライズドは、世界最高峰のバイク、ギア、フィット、
そしてライダーのためのあらゆるソリューションを提供する――それは紛れもない事実です。
でも、私が本当に伝えたいのは、それ以上の力です。
スペシャライズドには、人の心を動かす力がある。
走ることを諦めかけた人に、もう一度ペダルを踏ませる力。
諦めた心に小さな火を灯し、それを大きな焔へと変えていく力。
スペシャライズドが繋いでくれた人との出会いが、
止まっていた私の人生を、もう一度動かし始めてくれました。
バイクで、人生を変える。
スペシャライズドは、それを本気で信じて、形にしているブランドだと思います。
私もまた、その熱に動かされた一人として、この情熱を、次の誰かへとつなげていきたい。
本気で、そう思っています。