【アイアンマン マレーシア2025】気力・体力・集中力を揃えられない中、いかにして「目的」を果たしたか

  • 公開:2025.12.8
  • 更新:2025.12.4

こんにちは、スペシャライズド幕張オーナーの竹谷賢二です。

レースにおいて、持てるパフォーマンスを最大限に発揮するためには、「気力・体力・集中力」の3要素をピークに整えて臨むことが何より重要です。 しかし、今回のアイアンマン(IM)マレーシア、正直に申し上げると、この3つが何一つ揃わないままスタートラインに立つことになりました。

まず「気力」。 9月14日のIM世界選手権ニースを終えてからの6週間、ピークとしていたレースを終えて、タイムを縮めたい、勝ちたい、限界まで追い込みたいといった、アスリートとしての根源的な気概が一切起こらない「空っぽのような」の状態でした。

次に「体力」。 それでもトレーニング自体は順調に消化し、フィジカルは上向きに仕上がっていました。しかし、レース出発(11月1日)直前の1週間、日本を襲った急激な冷え込みにより状況は一変。喉の腫れと鼻水、風邪の症状を発症し、万全とは程遠いコンディションで現地入りすることになりました。

そして「集中力」。 気力と体力の不安は、そのまま集中力の欠如となって表れました。準備段階から忘れ物が多発。極めつけは、レース前日に受け取ったはずの計測用タイミングチップをそのまま紛失してしまうという失態。どこにもフォーカスが定まらず、レース特有のテンションの高まりもないまま、当日の朝を迎えてしまいました。

本来なら、勝負にならない状態です。しかし、私には「Konaスロット獲得」という明確な目的がありました。 3つの武器が揃わないなら、揃わないなりに戦うしかない。今回は「情熱」や「勢い」を捨て、徹底した「管理」と「理性」だけでゴールを目指す、完全な「プランB」のレース運びでした。

SWIMMING:穏やかな海でリズムを整える

1時間7分55秒(AG 5位)

スタート前の海は、まるで映画にある無人島のワンシーンのような静寂に包まれていました。綺麗な入江は波も風もなく、塩分濃度の高さもあって体がよく浮きます。

泳ぎやすさに定評のある「HUUBピナクル」トライスーツとスイムスキンで装備は万全、体調と集中力を確認しながら、あえて追い込みすぎず、練習の延長のような感覚で淡々と泳ぎました。決して手を抜くわけではありませんが、焦りは禁物です。

唯一の誤算は、先行していた70.3(ミドルディスタンス)の選手たちに早々に追いついてしまったこと。平泳ぎの集団や周回遅れの選手をかわすのに少し苦労しましたが、少し大回り気味でも安全マージンを確保。左右両側に配置されたブイの視認性も抜群だったため、ストレスなくスイムアップ。タイムも順位を意識しなかった割には上出来でした。

T1:まさかのミスと、スイッチの切り替え

トランジションエリアで知人と談笑し、いざバイクへ……と思った瞬間、足元の違和感に気づきました。なんと、スイムスキンを着たまま走り出していたのです。 すぐに引き返し、トランジットバッグに収納。チップ紛失に続くこのミスで、逆に目が覚めました。「今日のコンディションでこれ以上のミスは命取りになる。ここからは最高レベルの安全策(セーフティ)でいこう」。そう覚悟を決める、良いきっかけになりました。

BIKE:ジャングルクルーズと熱管理

5時間4分53秒(AG 1位 / 総合12位) 平均パワー 182W / NP 193W

バイクコースは、ジャングルの中を駆け抜けるような緑豊かなロケーション。時折、本物のサルたちが沿道に現れる「モンキーゾーン」もあり、アップダウンとコーナーが連続するテクニカルながらも楽しいコースです。

今回の機材選択には明確な意図がありました。 バイクは「S-Works Shiv TT」。そしてヘルメットはTT用ではなく、ロード用の「S-Works Evade 3」を選択。 本来ならTTヘルメットで空力を稼ぐところですが、今回は発熱しやすい体調を考慮し、頭部の放熱を優先しました。レンズもスコール対策でハイコントラストな「Smith Optics」を使用し、視界の安全を確保。

走行中のマネジメントには「Garmin Edge 850」のパワーガイド機能を活用しました。勾配やコーナー情報、推奨出力がリアルタイムで表示されるため、初見のコースでもリスクを最小限に抑えられます。

深部体温が上がりやすく、序盤から38.5℃~38.8℃で推移していたため、39℃を超えないようパワーを徹底的にコントロール。イケイケで踏むのではなく、体温計とパワーメーターを見ながら淡々と出力を調整しました。

それでも、Shiv TTの持つ「攻めずとも速い」性能のおかげで、パワーを抑えながらもスピードを維持し、結果的にバイクラップはエイジ1位。タイヤもいつもの最高パフォーマンスのレーシングタイヤ「COTTON」ではなく、「S-WORKS TURBO 」で荒れた路面での耐パンク性を高めて安全重視とし、機材の力に助けられたパートでした。

RUN:感情を排し、冷却に徹する

3時間58分41秒(AG 4位)

T2はエアコンの効いた室内。ここで一度身体を芯まで冷やし、リセットしてから灼熱のランへ飛び出しました。

シューズは「HOKA Rocket X3」。カーボンの反発で、脚への負担を最小限に抑えてくれる頼れる相棒です。

ランの作戦は「スプラッシュゾーン戦略」。エイドごとに立ち止まり、氷と水を確実に受け取って身体を冷却。「COREセンサー」で深部体温を監視し、危険域に達する前にペースを落とす。 本来のレースのような「限界に挑む高揚感」はありません。脳と身体が嫌がることを避け、ただ淡々と、マシンのように距離を刻む作業です。

30km過ぎ、脚に重だるさが来ましたが、「まあ、しょうがない」と受け流し、フィニッシュを目指しました。

RESULT

Total: 10時間19分46秒(AG 2位 / 総合32位)

フィニッシュゲートをくぐった瞬間に湧き上がったのは、達成感よりも「安堵」でした。 気力・体力・集中力を欠き、トラブルも多発した中で、Konaスロット獲得という目的を完遂できたことへの安堵です。

新しいKona Standard制度のもと、世界中でスロット争いが激化しています。マレーシアのようなアジアの大会にも欧米の強豪が集まるようになりました。 そんな中で、自分のコンディションを見極め、プランBを実行し、結果(パフォーマンスプール1位コールでのスロット獲得)を残せたことは、トライアスリートとして大きな自信になりました。

「体調が悪いから」「やる気が出ないから」と諦めるのは簡単です。しかし、どんな状況でも、その時にできる最善を尽くし、淡々と目的を果たすこと。この積み重ねが底力となり、強いアスリートになれるのだと。

一緒に頑張ってきたアスリート仲間と祝杯をあげた時、ようやく「嬉しさ」が込み上げてきました。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

竹谷賢二


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